どうも、ヤンセンです。
今回も引き続き、人気ホラー漫画家・伊藤潤二先生の短編シリーズである、「伊藤潤二コレクション」を読んだ感想をまとめました。
伊藤潤二コレクションは、約120本の短編からなるシリーズで、今回は50~52作目にあたる、「サイレンの村」「いじめっ娘」「脱走兵のいる家」の短編3編を紹介します。
サイレンの村
あらすじ
全国で発生する赤ん坊誘拐事件。そんな中、数ヶ月ぶりに実家の白部村に帰った京一は、村の中にただならぬ雰囲気を感じて…
白部村では夕暮れ時にサイレンが鳴り響き、それを聞き続けた村人は正気を失います。
サイレンの音の正体は、四百年前に封印された悪魔クルフィスの声でした。村の女たちは、その声を聞くと自らも悪魔と化してしまいます。
魔術師ドルマンの生まれ変わりである灰山は、村の女たちを使って赤ん坊を誘拐させ、魔神ルフドーを呼び出します。
京一は、オカルト好きの幼なじみ、ユカリの作った結界に逃れたため助かりましたが、魔神の復活を止めることはできませんでした。
本作は、日本の寒村が舞台でありながら、やってることはアメリカのオカルト映画そのもの。個人的には、魔神ルフドーが復活するくだりで、映画「ゴーストバスターズ」での破壊神ゴーザの復活を思い出しました。
ゴーストバスターズでは破壊神は倒されますが、サイレンの村の魔神ルフドーは倒されず、世界を暗黒の時代へと導こうと大都市へと飛び立っていく所で終わります。破滅エンドですね。
本作について個人的に一番言いたいのは、京一の幼なじみのユカリが超かわいいという事です。
ユカリはおさげ髪の地味な少女で、作中ではずっとネグリジェを来ています。外を歩く時もネグリジェを着たままです。
京一と再会した時、ユカリは自ら鼓膜を破り、耳から血を流していました。ユカリは幼い頃からオカルト好きで、悪魔についても知識があったため、サイレンの対策を講じていました。
魔神復活の際も結界を作り、京一を助けます。
この先絶望が待ち受けている世界ですが、ユカリと2人で一緒に生きていけるならそれも悪くないと思ってしまいました。
いじめっ娘
栗子には、子供の頃の隠したい過去があった。裕太郎から結婚を申し込まれた栗子は、思い出の場所である公園で、過去を語り始める…。
栗子が語ったのは、子供の頃、公園で年下の男の子、直くんをいじめていたということ。当時裕太郎のことが好きだった栗子ですが、直くんの母親に頼まれ、仕方なく直くんの面倒を見るようになります。しかし直くんがいるため裕太郎に近づくことがままならず、その鬱憤を直くんにぶつけ始めます。
初めは耳元で大きな声を出す程度だったのが、どんどんエスカレートしていき、ドブに頭を沈める、木の枝で激しく打ち付ける、最後には猛犬に襲わせ、大怪我を負わせてしまいます。
大人になった栗子は、裕太郎から結婚を申し込まれますが、断ります。栗子は大人になった直くんと再会し、恋人同士となっていたのです。結婚し、子供にも恵まれた2人。しかし、すぐに直くんは失踪し、栗子は女手一つで息子の洋を育て始めます。
生活に疲れたころ、ある日ふと、息子の洋を”直くん”と呼んでしまう栗子。そして突然、直くんをいじめていた時のことを思い出します。そして気づくのです。直くんは初めから栗子に復讐するつもりで、洋を産ませて失踪したということに。
それから栗子は、自分が子供だった頃の服装に身を包み、洋を夜の公園に連れ出します。もちろん、直くんの代わりにいじめるために。
本作では、最終ページのめくりで栗子が子供服を着て、恐ろしい形相で立っている姿が脅かしポイントではあります。ただ、個人的に一番恐ろしかったのは、栗子が我が子である洋を、直くんと重ねるところです。栗子が直くんをいじめていたのは、裕太郎と近づくのを邪魔されたくないからだったはずです。しかしいつの間にか、直くんをいじめる行為自体が快感と化しており、大人になった今でも体に染みついているのです。その後の栗子は、洋のことを直くんとして扱います。この時栗子の心は壊れてしまったということなのでしょう。個人的には、直くんが失踪したのも本当に栗子への復讐なのか疑わしいと思っています。生活に疲れ、自分は被害者だと思いたい気持ちから来る栗子の妄想なのではないかとも思います。
まあ、いつものごとく伊藤潤二作品ではそのあたりの事情は読者の想像に任されるのです。少なくとも、心が壊れてしまった女性がそこにいたということだけは変わりません。
脱走兵のいる家
あらすじ
阿寺家では数年前から脱走兵の古川をかくまっていた。戦争はすでに終結していたが、阿寺は”復讐”のため、古川にはそのことを伝えずにいて…
阿寺家には長兄のほかに、3人の妹がいました。
”いました”というのは、一番上の妹、君枝は8年前に亡くなっているためです。東証、古川の世話は君枝に任されていました。古川と毎日接するうちに、君枝は古川と親密になっていきます。ある日、古川との関係について長兄と口論になった君枝は、家を飛び出します。その時、米軍の空襲があり、君枝は命を落としてしまいます。
阿寺家の長兄は、その事を恨み、戦争が終結したあとも古川にそのことを伝えずにいたのです。
ある夏、終戦後初めて花火大会が行われることになりました。阿寺家の長兄は、花火の音を空襲だと言って、古川をかくまっている部屋から連れ出そうとします。しかし、そこにあったのは古川の首つり遺体。実は、君枝が命を落とした8年前に、自責の念に駆られた古川は自殺していたのです。
では、これまで姿を見せていた古川は誰?ご飯を食べていたのは?
亡くなった人物と8年間触れ合っていたと知り茫然とする阿寺兄妹…。
おわりに
今回は、「伊藤潤二コレクション」より、50~52にあたる短編3話を紹介しました。
「伊藤潤二コレクション」は、kindle版だと1作ずつ110円~220円で購入可能ですので、興味のある作品から読むことができます。また、紙の本の場合は「伊藤潤二傑作集 5 脱走兵のいる家」で今回紹介した作品を読むことができます。
本記事を読んで興味の湧いた方は、ぜひ読んでみてください。
それでは、また。