読書

【ネタバレ感想】伊藤潤二コレクション47~49 【リ・アニメーターの剣】【父の心】【耐えがたい迷路】

どうも、ヤンセンです。

今回も引き続き、人気ホラー漫画家・伊藤潤二先生の短編シリーズである、「伊藤潤二コレクション」を読んだ感想をまとめました。

伊藤潤二コレクションは、約120本の短編からなるシリーズで、今回は47~49作目にあたる、「リ・アニメーターの剣」「父の心」「耐えがたい迷路」の短編3編を紹介します。

ヤンセン
ヤンセン
「リ・アニメーターの剣」が少年漫画っぽくて好き
パープル
パープル
「父の心」の美保ちゃんがかわいい


伊藤潤二傑作集(5) 脱走兵のいる家 (朝日コミックス)

リ・アニメーターの剣

あらすじ

啓二は神社で大量の人魂を集める男を目撃する。
その夜、啓二の祖父が亡くなった。祖父の遺体の元に、「生かし屋」と呼ばれる怪しい男が現れる。その男は、昨晩啓二が目撃した男だった…

ヤンセン
ヤンセン
微妙に少年マンガ感のある話
パープル
パープル
32ページで終わるにはもったいない設定だわ
感想(ネタバレあり)

啓二は謎の男から、啓二にも死体蘇生者(リ・アニメーター)の素質があると告げられます。
その時のセリフが能力マンガっぽくて面白いです。

「お前はやがて必ず目覚める 死体蘇生者としての能力に」

しかしこの男は啓二を導こうとしているのではありません。死体蘇生者の能力を使うには、1本しかないリ・アニメーターの剣が必要で、男はいずれ啓二が剣を奪いに来る事を予想し、啓二を殺そうとします。

ここで伊藤潤二作品には珍しいバトル展開に。直前で能力マンガ感を醸し出していたのも相まって、この辺りかなり少年マンガっぽく感じました。

結局、啓二が男を倒すのですが、それにより啓二の祖父、そして母と弟までもが、腐敗した死体の姿に変わり体が崩壊します。蘇生されていたのは祖父だけではなかった…という展開。

その後、啓二がリ・アニメーターの剣を受け継ぎ、死体蘇生者(リ・アニメーター) として覚醒する…と言う所で話しは終了。
これはこれで余韻を残す良い終わりではあるのですが、個人的にはこの続きとして、死体蘇生者(リ・アニメーター)として覚醒した啓二の話をもう少し描いて欲しかったなと思います。

父の心


あらすじ

厳格な父の下で育てられた藤堂家の3兄弟。彼らには、定期的に頭痛に襲われるという共通点があった。長男の悟は14歳の時、ひどい反抗期を迎え、その後自殺してしまう。次男の栄一も父親に反抗し家を抜け出すが、妹の美保が恐ろしい目つきで連れ戻しに来て…

ヤンセン
ヤンセン
ちょっと哀しい話
パープル
パープル
目つきが悪い美保ちゃんもかわいい
感想(ネタバレあり)

次男の栄一も悟に続き自殺してしまい、残されたのは美保だけに。栄一が家出した晩と同じく、美保はたびたび恐ろしい目つきに変わり、異常な行動をとります。

その後明らかになるのが、藤堂父が子供たちに乗り移り、子供たちの体を操っていたという事。藤堂母と美保は、悟、栄一の2人は父に反抗したため、父に体を操られ殺されたと疑います。そして司の協力を得て、父の元を去り、別の土地で暮らそうと画策します。

母と美保を連れ戻そうとする藤堂父と、それを止めようとする司。もみ合う中で新たな真実が明らかになります。藤堂父は子供のころから働き詰めでほとんど遊ぶことができなかったこと。そして、ある時期から我が子の体に乗り移れるようになり、我が子の体を使って子供のころできなかった遊びを行っていたこと。子供たちは藤堂父が殺したのではなく、父に操られていることを悟った子供たちが自ら死を選んだということ。

母と美保に逃げられた父は、自らも死を選びます。

この話で悲しいのは、藤堂母が妊娠したことを藤堂父が喜ぶシーンがあるのですが、藤堂父が子供を殺していると疑っているは藤堂母は、「美保を殺そうとしていて、その代わりの子供ができたことを喜んでいるのではないか?」とますます疑いを深めてしまうところです。おそらく、藤堂父は新たな子供ができたことを素直に喜んでいたし、悟・栄一が死んだときも素直に悲しんでいたのでしょう。それが誤解されたまま亡くなるというところで、藤堂父の悲しみが沁みます。

あと、この話で特筆すべきは美保ちゃんのかわいさです。伊藤潤二作品では、恋人同士のキャラクターがいても、すでに関係性ができているパターンがほとんどです。本作では、美保ちゃんが司に対して2年以上にわたって淡い恋心を抱いている様子が描かれており、より魅力的に見えます。敬語で話す清楚キャラなのもいいです。

耐えがたい迷路

あらすじ

不登校の少女・小夜子は、気分転換に友人の法子と山歩きに出かけるが、途中で道に迷ってしまう。途中で修行僧に出会った2人は、寺で一泊することを勧められるが…

ヤンセン
ヤンセン
ホラーというよりミステリの気持ちで読んだ
パープル
パープル
オチのコマがちょっと面白い
感想(ネタバレあり)

小夜子は些細な出来事からクラスメイトの視線が気になるようになり、不登校になった少女です。小夜子たちが泊まったのは「不迷教団」という宗教団体の寺で、多くの悩みを抱えた人々が迷いを断ち切るために修行に訪れていました。

他人の視線が気になり苦しんでいる小夜子は、誘われるまま修行を開始します。そんな中、兄がこの宗教団体に入信し、その後音信不通になったという女性に出会い、この女性と共に、信者たちの”入定”の儀式に潜入します。

この”入定”の儀式とは、いわゆる即身仏(ミイラ)になるための儀式で、「不迷教団」の信者たちは、即身仏になることで現世の迷いを断ち切ることを目標としています。普通、即身仏になる場合は一人で土の中に生き埋めにされるのですが、この団体の信者たちは地下回廊に入り、両側の壁に一列に並んで死を待ちます。

過去に即身仏になった信者たちの遺体が一列に並ぶ回廊の中を奥へ奥へ進むうち、出口がわからなくなる小夜子たち。小夜子は即身仏から見られているように感じ、苦しみます。そして気づくと、回廊の最深部では、信者がまだ生きており、小夜子たちを見つめていたのです。。。

視線恐怖症の小夜子にとって、最も恐ろしいのが人の視線。その視線から逃れることのできない迷路に入り込んでしまう…というのが本作の怖さのポイントです。純粋に精神的な恐怖を描いた作品で楽しめました。

おわりに

今回は、「伊藤潤二コレクション」より、47~49にあたる短編3話を紹介しました。この3作には、伊藤潤二先生と聞いて連想するおぞましい化け物は出ませんが、名作ぞろいでおすすめです。

「伊藤潤二コレクション」は、kindle版だと1作ずつ110円~220円で購入可能ですので、興味のある作品から読むことができます。また、紙の本の場合は「伊藤潤二傑作集 5 脱走兵のいる家」で今回紹介した作品を読むことができます。


伊藤潤二傑作集(5) 脱走兵のいる家 (朝日コミックス)

本記事を読んで興味の湧いた方は、ぜひ読んでみてください。

それでは、また。