読書

【ネタバレ感想】伊藤潤二コレクション31~35 死びとの恋わずらい

200913_itojunji_collection_shibitonokoiwazurai_mid

どうも、ヤンセンです。

今回も引き続き、人気ホラー漫画家・伊藤潤二先生の短編シリーズである、「伊藤潤二コレクション」を読んだ感想をまとめました。

伊藤潤二コレクションは、約120本の短編からなるシリーズなのですが、今回は全5話からなる中編 死びとの恋わずらいが収録された 31~35作目まで紹介します。

ヤンセン
ヤンセン
「死びとの恋わずらい」は怖さだけでなくストーリー性も魅力の中編だよ。
パープル
パープル
「悩む女」の回はほんとに怖かった…


伊藤潤二傑作集 4 死びとの恋わずらい (ASAHI COMICS)

死びとの恋わずらい 第1話・四つ辻の美少年


あらすじ
霧深い街・難澄市では、若い女性の間で「辻占」(つじうら)が流行していた。辻占とは、道を通りかかった見知らぬ人に、自分の恋が叶うかを占ってもらう遊び。数年ぶりにこの町に戻ってきた龍介には、この「辻占」にまつわるある嫌な記憶があった…

 

ヤンセン
ヤンセン
鈴江が別人に変わりすぎて悲しかった
パープル
パープル
鈴江ちゃんの膝がシワシワになるところもリアルよね

本作「死びとの恋わずらい」は、辻占の流行する町・難澄市で、主人公・龍介の周りで起きる奇怪な事件を描いたシリーズで、奇怪な化け物がたくさん出てくるわけではないのですが、個人的にはかなり怖かったシリーズです。

辻占をする女子中高生の間で、「四つ辻の美少年」の噂が流れます。「四つ辻の美少年」はこの世のものとは思えないほどの美少年で、辻占をしている少女に「その恋は絶対実らない」と告げるのです。そして、告げられた少女は自殺してしまう

龍介は過去に辻占で自分が「その恋は実らない」と告げた女性が自殺してしまったことから、辻占にトラウマがあります。しかも、自殺した女性は幼馴染のみどりの叔母だったのです。そのため、両想いのみどりともギクシャクしてしまいます。

一方、龍介に思いを寄せる少女・鈴枝は辻占で「四つ辻の美少年」に出会います。そして、今まで龍介の幼馴染であるみどりに遠慮して打ち明けられなかった恋心を龍介に明かすのですが、それ以降鈴枝は異常をきたします。龍介にストーカーのような極端なアプローチを行う一方、外見はどんどん痩せていて病人のようになります。

shibito2

出典:伊藤潤二 死びとの恋わずらい 第1話・四つ辻の美少年

最初はかわいかった鈴枝ですが、最後はほんとに哀れな姿になり、かわいそうで心が締め付けられます。龍介に拒絶された鈴江は突然自分の首を切り自殺してしまうのですが、このシーンが結構ショッキングでした。

結局、この話は特に何かが解決するわけではありません。ただ、みどりが四つ辻の美少年に出会いそうになる際に、みどりの叔母らしき人物が龍介をみどりの元に導いてくれたことが、龍介の過去への後悔に対する救いのようにも感じられました。

死びとの恋わずらい 第2話・悩む女


あらすじ
龍介とみどりは町で女性に辻占を頼まれる。その女性は、龍介が過去に辻占をして自殺させてしまった女性と同じく、不倫相手の子供を身籠ったことを悩んでいた。その後、その女はみどりや龍介をつきまとい悩みを相談するようになり…

ヤンセン
ヤンセン
ページをめくったところで「悩む女」が立ってたところはほんとにびっくりした
パープル
パープル
幽霊とかじゃなく人間の狂気が怖い

本作は個人的には「死びとの恋わずらい」の中で一番怖いと思う話です。

辻占の女はみどりや龍介を付きまとい、悩みを相談してきます。ただ、その女はどんな助言をしても「あーどうしようーどうしようー」と悩むばかり。相談してくるくせに龍介の話は全然聞いていません。なんか、こういうことって現実でもあるよなーっと苦笑してしまいます。

悩む女の悩みは、来るたびにエスカレートしていきます。最初は不倫相手の子を産むべきかどうかで悩んでいます。(結局、その子供はじ女が自分で自分の腹を殴って流産させてしまう)次には、不倫相手を振り向かせるために不倫相手の子供を殺してしまい、人殺しになってしまったと悩みます。その次にはなぜか、不倫相手に自分の本気を見せるために不倫相手の名前の入れ墨を入れるかどうかで悩みます。

shibito3

出典:伊藤潤二 死びとの恋わずらい 第2話・悩む女

ここであれ?人殺し→入れ墨だと悩みのレベル下がってない?となりますが、実はここが僕がこの話が怖いと思ったところなんです。次に龍介が悩む女に出会ったとき、「広一郎 命」とだけ入れるはずだった入れ墨を全身(顔まですべて)に入れており、化け物じみた姿に変わっていたのです。

ページをめくったとき、この入れ墨姿の女が立っているのを見たときは、心臓がギュっとなりました。ビジュアルの怖さだけでなく、消すことのできない入れ墨を全身に入れるという、取り返しのつかないことをしてしまった悩む女の狂気にも怖さを感じました。

物語の最後には悩む女がなぜ次々と悩みをエスカレートさせてしまったのかが語られるのですが、それが、「四つ辻の美少年」に「もっと大きな悩みがあればそれまでの悩みは取るに足らないものになる」と告げられたからなのです。悩む女の悩みはエスカレートするしかなく、最後には破滅が待っています。

死びとの恋わずらい 第3話・影


あらすじ

町で龍介が「四つ辻の美少年」だという噂が流れる。少女を自殺に追い込む「四つ辻の美少年」を憎むものがいる一方、「四つ辻の美少年」の熱狂的なファンも存在し、龍介を追いかけまわし始める…

ヤンセン
ヤンセン
みどりがヤキモチ焼くのがかわいい
パープル
パープル
実は主人公が犯人だった…的な展開を期待したわ

龍介が「四つ辻の美少年」だという噂が流れた際、龍介は「四つ辻の美少年」がつけているピアスの穴が自分の耳にはないと弁解します。しかし、ある夜目が覚めると耳に画鋲がささっており、「四つ辻の美少年」と同じく耳に穴があいてしまいます。

また、龍介の部屋に「四つ辻の美少年」と同じ黒い服が置いてあるなど、本当は龍介が「四つ辻の美少年」なのではないかと疑ってしまいます。本作では主人公が実は犯人なのではないかと疑わせるミステリ的展開が楽しめました。

真相はというと、龍介が「四つ辻の美少年」だと噂を流したのは龍介の旧友の手島だったのです。辻占で鈴江の幽霊と出会った手島は、鈴江に取り殺されないように、鈴江の願い(=龍介とあの世で結ばれる)を叶えようと工作していたのです。

結末としては龍介と「四つ辻の美少年」は別人だと明かされるのですが、実は2人には浅からぬ因縁があることが次の話で明かされます。

死びとの恋わずらい 第4話・絶叫の夜


あらすじ

「四つ辻の美少年」の熱狂的なファンから逃れるために一人空き家に逃げ込んだ龍介。食事の世話に龍介の元を訪れたみどりに、なぜ自分と距離を置くのか問い詰められた龍介は、過去に自分がみどりの叔母を自殺に追い込んでしまった過去を告白するが…

ヤンセン
ヤンセン
せっかくみどりに思いを打ち明けたのに…
パープル
パープル
背景に何の説明もなく鈴江の顔が浮かんでるのがシュールで怖い

龍介の告白に悩むみどりは、「四つ辻の美少年」と出会い、「一生憎め」と告げられます。その言葉を聞いたみどりは、食事としてネズミの死骸を出すなど、龍介に対する嫌がらせを始めます。

一方、町では「四つ辻の美少年」による追っかけ少女の大量死が発生し、龍介が容疑者になります。ここでみどりは警察に龍介を突き出すこともできたのですが、そうはせず、龍介に対する嫌がらせを続けます。

このあたり、みどりは龍介を憎み、嫌がらせをしつつも、他の少女と離れて龍介を独占できる状態を手放したくないのかなと思いました。

また、本作では「悩む女」に登場した女の不倫相手と、みどりの叔母の不倫相手が同一人物であることと、「四つ辻の美少年」が、その不倫相手の息子であることが明かされます。

ただ、みどりは「四つ辻の美少年はみどりの叔母のお腹にいた赤ちゃん」だと言い、不倫相手の男は「当時十歳だった息子が行方不明になっている」(→それが「四つ辻の美少年」となった可能性がある)と言っていることから、どちらが「四つ辻の美少年」なのかは結局確定しません。

その後、龍介が警察に自首する(=みどりの元を離れる)と言い出すと、みどりは自殺してしまいます。みどりは死ぬことで、「龍介を一生憎む」という苦しみから逃れたのです。孤立していく龍介の理解者だったみどりの死は、切ないと同時に、龍介の味方がいなくなったことを意味します。そして龍介は、「四つ辻の美少年」と対峙するのです…。

本作のラスト、「辻占で白服の美少年と出会うと幸福になれる」という噂が町で流れます。「白服の美少年」とは、命を落とした龍介のことだと思われます。結局、龍介、みどり、鈴江など主要な人物はみんな命を落とすのですが、このラストにはなぜか救いを感じました。

死びとの恋わずらい 余話・白服の美少年



あらすじ
霧深い街・難澄市を訪れた男。この町には「四つ辻の美少年」と「白服の美少年」の噂があった。人生に疲れていた男は、辻占で楽な死に方を聞くと、「白服の美少年」に「100回辻占に答えろ」と言われ…

ヤンセン
ヤンセン
娘たちの亡霊が町を飛び交う姿は怖いというよりシュール
パープル
パープル
辻巡りをするカップルは伊藤潤二作品ではほんとに珍しい幸せなカップルね

死びとの恋わずらい最終話の後の後日談。

これまでの主要キャラクターとは別の視点での町の様子が描かれます。「四つ辻の美少年」によって大量死させられた少女たちの亡霊は、辻占に立ち「私の(四つ辻の美少年との)恋は実りますか?」と通行人に問いかけます。

「白服の美少年」は少女の亡霊一人ひとりに対し、「必ず実る」「愛してやってくれ」「彼を愛してやってくれ」と声を掛けます。龍介は自らが辻占で人を不幸にしてしまった後悔からか、辻占で不幸になった少女たちに安らぎを、愛を知らない「四つ辻の美少年」に愛をもたらそうとしているのです。

最後のシーン、「四つ辻の美少年」が霧に紛れて姿を消します。もちろん、このシーンだけでは判断できないのですが、「四つ辻の美少年」に救済がもたらされたようにも見えます。

おわりに

今回は、「伊藤潤二コレクション」より、「死びとの恋わずらい」が収録された31~35までを紹介しました。「死びとの恋わずらい」は、ホラーとしてだけでなくストーリーも楽しめる良作シリーズです。

「伊藤潤二コレクション」は、kindle版だと1作ずつ110円~220円で購入可能ですので、興味のある作品から読むことができます。また、紙の本の場合は「伊藤潤二傑作集 4 死びとの恋わずらい」で今回紹介した作品を読むことができます。


伊藤潤二傑作集 4 死びとの恋わずらい (ASAHI COMICS)

本記事を読んで興味の湧いた方は、ぜひ読んでみてください。

それでは、また。