読書

【ネタバレ感想】伊藤潤二コレクション44~46 【悪魔の理論】【屋根裏の長い髪】【シナリオどおりの恋】

どうも、ヤンセンです。

今回も引き続き、人気ホラー漫画家・伊藤潤二先生の短編シリーズである、「伊藤潤二コレクション」を読んだ感想をまとめました。

伊藤潤二コレクションは、約120本の短編からなるシリーズで、今回は44~46作目にあたる、「悪魔の理論」「屋根裏の長い髪」「シナリオどおりの恋」の短編3編を紹介します。

ヤンセン
ヤンセン
「シナリオ通りの恋」がいい感じに後味が悪い話
パープル
パープル
屋根裏の長い髪で首を見つけるシーンもいいわ


伊藤潤二傑作集(5) 脱走兵のいる家 (朝日コミックス)

悪魔の理論

あらすじ

想い人と付き合うことになり、幸せの絶頂だったはずの森本和美。その一時間後、なぜか森本は飛び降り自殺してしまう。その一時間の様子が録音されたテープを聞いた岡森は…

ヤンセン
ヤンセン
10ページの短編だけど構成がすばらしい
パープル
パープル
森本と岡森の行動がシンクロするのがおもしろいわ
感想(ネタバレあり)

イタズラで森本の鞄にテープレコーダーを仕込んでいた岡森は、森本がある女生徒から”死への理論”について聞かされ、死ぬように説得されます。とはいえ、普通ならそんな話を聞かされた所で死のうとは思わないのでしょうが、その”完成された死神の哲学”に説得され、森本は自らの死に場所を探し始めます。

この話の面白い所として、森本が自殺するところをただ描写するのではなく、岡森がテープでその様子を聞くという点です。これにより、謎解きの面白さがあるのはもちろんですが、森本が受けた説得を岡森も追体験することになります。

テープの中の森本と岡森の行動がシンクロし、岡森も飛び降りを図ろうとしますが、いざ飛び降りようとすると躊躇します。きっと森本もためらったでしょう。そこで最後のダメ押しが来ます。

森本が自殺したとき、傍に横井という教師がいたのですが、この教師は自殺を引き止めていたのではなく、森本が死ぬように仕向けていたのです。森本を唆した女生徒も、横井に心酔していたのです。

この話は特にグロテスクな描写もないミステリー的な話で楽しめました。

屋根裏の長い髪

あらすじ

恋人の好みに合わせて髪を伸ばしていたチエミ。恋人に振られた晩、チエミの長い髪に屋根裏のネズミが絡まっていて…

ヤンセン
ヤンセン
なんでそうなるか説明がないパターンのやつ
パープル
パープル
屋根裏のシーンの1枚絵が美しいわ
感想(ネタバレあり)

屋根裏のネズミが髪に絡まったことを機に、別れた恋人への想いを断ち切ろうと、チエミは髪を切ることを決意します。しかし、髪を切る前に、チエミは首なし死体となって発見されるのです。

数日後、屋根裏でチエミの首が見つかりますが、チエミの髪が意思を持った生物のように動き、家から出ていきます。そしてその髪はチエミを振った恋人の家にやってきて…というところで終わり。その先の出来事は読者の想像に任されています。

チエミを殺したのはチエミ自身の長い髪でした。これは、チエミに髪を切られまいと殺したという事でしょうか。チエミの恋人の家を訪れたのは、やはり復讐のためだと思うのですが、正直なぜ髪が恋人に復讐するのかがわかりません。振られた腹いせ?

伊藤潤二先生の作品にはたまに、明確な説明や伏線がないものがあり、この話もそのパターンでした。(説明がないから一概にダメというつもりもないですが)

個人的にこの作品の見どころは、屋根裏でチエミの首を発見するシーンです。ページめくりで1ページまるまるがこのカットになっているのですが、黒ベタが効果的に使われた非常に美しい1枚絵になっています。伊藤潤二コレクションの中でも、黒の美しさはこのページが1番ではないかと思います。

シナリオどおりの恋

あらすじ

劇団の新人女優・香織は、プレイボーイと噂の脚本家・高橋と付き合い始める。しかし高橋はすぐに別の恋人を作り、香織に別れを迫る。その際、高橋は「テープの中に僕がいる。さみしくなったらこれを見て」と自分を撮影したビデオを香織に渡すのだが…

ヤンセン
ヤンセン
グロテスクな描写がないけど秀逸な作品
パープル
パープル
世にも奇妙な物語でやれそうね
感想(ネタバレあり)

高橋に別れ話を持ち掛けられた香織は、激高し高橋を包丁で刺してしまいます。その後冷静になった香織は、高橋に渡されたビデオを見始めます。ビデオには脚本がついており、その脚本を読むことで、まるで高橋と会話しているような気分になれる代物でした。

香織はビデオの中の高橋との会話に夢中になっていきます。プレイボーイの高橋が、ビデオを通じては香織のことだけを見てくれるのだから。

その後、香織に刺された高橋が瀕死の状態で香織の元に来ます。「救急車を呼んでくれたら香織と結婚する」とまで言って命乞いします。しかし香織は拒否します。もはや香織は本物の高橋への興味を失っていたのです。死にゆく高橋の横で、香織はビデオの中の高橋との会話を続けるのでした。

この話の面白いのは、超常現象は一切起こらない点です。現実に不可能な設定は何もないのに、奇妙な、気味の悪い後味があります。なんとなく、世にも奇妙な物語を連想しました。

おわりに

今回は、「伊藤潤二コレクション」より、44~46にあたる短編3話を紹介しました。この3作にはそれぞれ違った味わいがあり、伊藤先生のホラーの幅広さが味わえます。

「伊藤潤二コレクション」は、kindle版だと1作ずつ110円~220円で購入可能ですので、興味のある作品から読むことができます。また、紙の本の場合は「伊藤潤二傑作集 5 脱走兵のいる家」で今回紹介した作品を読むことができます。


伊藤潤二傑作集(5) 脱走兵のいる家 (朝日コミックス)

本記事を読んで興味の湧いた方は、ぜひ読んでみてください。

それでは、また。