どうも、ヤンセンです。
今回も前回に引き続き、人気ホラー漫画家・伊藤潤二先生の短編シリーズである、「伊藤潤二コレクション」を読んだ感想をまとめました。
伊藤潤二コレクションは、約120本の短編からなるシリーズなのですが、今回は6~10作目まで紹介します。
Contents
富江・屋敷(伊藤潤二コレクション6)
あらすじ
月子シリーズ3作目。転校した月子の元に、富江がやってきて山崎に会いたくないかと尋ねる。富江に連れられて訪れた屋敷には、富江が「お父さま」と呼ぶ老人がいた…
富江の性質にやたら詳しい謎の老人が登場して、「こいつ何者だ?」となるのですが、実は正体は1作目に登場した教師の高木。富江の体の謎を暴くべく実験を繰り返していたのです。そして、屋敷の本来の主の娘は、高木の実験によって異形の姿に変えられてしまいます。
出典:伊藤潤二 富江・屋敷(伊藤潤二コレクション6)
娘を異形の存在に変えられた屋敷の主の悲しみもさることながら、本作で個人的に恐ろしく感じたのは、娘自身は自我を失っているらしいことです。自我の喪失=精神的に死を迎えていながらも、肉体は醜いまま(他社からはそれを”自分”だと認識されたまま)この世に存在しつづけるという状態はなんとも辛いと思います。
富江・復讐(伊藤潤二コレクション7)
あらすじ
雪山登山隊が雪山で、裸で倒れている富江を救助する。登山隊の谷村は、富江と2人きりの山小屋で、ある事実を知らされて…
前回までの富江シリーズとは登場人物を一新した作品。これまで登場した月子や高木の周り以外でも、日本各地に富江は何体もいて、さまざまな男性を虜にしているのだと感じさせます。
本作では、主人公の男が、雪山の山小屋で富江と救助を待つことになります。主人公が富江を見て「なんて美しい寝顔なんだ」というコマがあるのですが、その顔が白目むいてて全然美しくないのがちょっと笑えます。
ラスト1コマは非常に秀逸。主人公の破滅を予感させ、ホラー漫画としては最上の余韻を残すコマだと思います。ぜひ、あなたの目でお確かめください。
富江・滝壺(伊藤潤二コレクション8)
あらすじ
寂れた山村に訪れたセールスマン。彼は埋めると女の子が生えてくるという得体のしれない”女の子の素”を販売していた。村人の反発に遭ったセールスマンは、”素”をすべて滝壺に投げ捨てる。するとその滝壺は自殺の名所となり…
本作では、寂れた村に謎のセールスマンが現れ、“女の子の素”を売り歩きます。“女の子の素を畑に埋めると女の子が生えてくる”というワードだけでもうおもしろいですね。この”素”というのは当然富江の肉片です。
出典:伊藤潤二 富江・滝壺(伊藤潤二コレクション8)
本作は、自殺者の肉を食べて成長した多数の富江が、滝壺を出て行進するというシーンで終わります。どんどん増えていきますね。富江。ここまでのシリーズでも数百人誕生していても不思議はないです。このペースで増えていくと、そのうち日本全土が富江だらけになるのではないかと思います。
富江・画家(伊藤潤二コレクション9)
あらすじ
人気・実力を兼ね備えた気鋭の若手画家・森の元に富江が訪れ、自分を描いて欲しいという。しかし、完成した絵を見た富江は、自分の美しさが表現できていないとこき下ろし、森の元を去る。しばらくすると、森の同期の彫刻家、岩田の元に富江がいるという情報が寄せられて…
ナナというモデルを描いた絵画で人気を博す画家の森は、個展の会場に現れた富江がナナを「まぬけな顔」と評したことをきっかけに、ナナに魅力を感じなくなります。
美人画を得意としていた森ですが、富江に魅せられた後は美的感覚が狂っていってしまいます。最終的に森が描いた富江の肖像は、頭に別のグロテスクな顔がついたものでした。これは僕の妄想ですが、富江に魅せられる男たちが富江に対して感じる魅力っとは、醜さが影に潜んでいるからこその悪魔的な美しさといったものなのではないでしょうか。そしてラストではまたバラバラにされ、増殖する富江。
富江・暗殺(伊藤潤二コレクション10)
あらすじ
通り魔にさされ重症を負った富江を自分のアパートに保護した哲夫。自分が死んだら死体を人の来ない場所に埋めて欲しいという富江。ほどなく死亡した富江の死体を山に埋め、帰ろうとして哲夫は、埋めた富江の死体の胸にできた人面疽に呼び止められ…
山に埋めた富江の死体から切り取った人面疽(=顔面だけの富江)をアパートで育てている様子を見ると、2000年頃に流行った女の子の生首を育てる恋愛ゲーム(Tomak)を思い出しました(若い子は知らないと思いますけど)。
出典:伊藤潤二 富江・暗殺(伊藤潤二コレクション10)
富江には自分以外の富江を殺そうとする習性があり、本作では、それぞれの富江が自らの手先の男を使って殺し合いを行います。これ以降もしばしば出てくるシチュエーションなのですが、読んでいると、富江を頂点とした一種のヤクザ同士の抗争ものみたいに思えてきます。全国各地に散らばった多数の富江が、魅惑した男を手下にしながら、自分以外の富江を皆殺しにするために戦う…と考えると、なんだかワクワクしますね。
おわりに
今回は、「伊藤潤二コレクション」より、富江シリーズ中盤の6~10までを紹介しました。
「伊藤潤二コレクション」は、kindle版だと1作ずつ110円~220円で購入可能ですので、興味のある作品から読むことができます。また、紙の本の場合は「伊藤潤二傑作集1 富江(上)」で今回紹介した作品を読むことができます。
伊藤潤二傑作集(1) 富江(上) (朝日コミックス)
本記事を読んで興味の湧いた方は、ぜひ読んでみてください。
それでは、また。