どうも、ヤンセンです。
今回は読書記事の1発目として、僕の大好きな江戸川乱歩の小説「心理試験」を紹介します。
Contents
あらすじ
優秀な大学生蕗谷清一郎(ふきや せいいちろう)は、友人である斎藤の下宿主の老婆が、自宅に大金を隠している事を知る。苦学していた蕗谷は、老婆を殺害し、その金を得ることを思いつく。絶対に自分が疑われないように、周到な準備のもと老婆を殺害した蕗谷。判事の笠森は、犯人を明らかにするため、斎藤と蕗谷に対し心理テストを行うが…。
僕が思う「心理試験」の魅力
「心理試験」というストーリー上の小道具を使い切る
本作では、老婆の殺害犯を突き止めるため、笠森判事が「心理試験」という心理テストを行います。
本作が発表されたのは1925年で、正確なことはわかりませんが、心理テストをモチーフにした小説としては初期のものだと思います。本作は、心理テストを使った初期の作品でありながら、ストーリーの小道具として心理テストを非常に効果的に使っています。
僕が思うに、ミステリ・SFの秀逸な作品には、作品内で単に新たな概念を提示するだけでなく、その概念を導入したことで読者が想像する結果よりも一歩進んだ結果を見せてくれるものがあります。
例えば、アイザック・アシモフ「われはロボット」では、最初に有名なロボット三原則(=新たな概念)が提示されます。そして、一見その原則に反する行動を取る(=読者が想像する結果と異なる)ロボットの行動原理を、ロボット三原則に照らし合わせて解釈していく(=一歩進んだ結果)というストーリーになっています。
この「心理試験」も同じです。本作では、心理テストというミステリの小道具を導入しています。しかし、心理テストで犯人が暴き出される過程は、読者が普通に想像するものとは少し違います。
詳しく書くとネタバレになるのでこれ以上は書きませんが、本作の後で、心理テストをモチーフに小説を書こうと思った作家の中には、「自分が書きたかったことがもうやられてる!」と思った人がいたのではないでしょうか。
何といっても蕗谷清一郎というキャラの魅力
「心理試験」で僕が特に好きなのが、犯人であり主人公でもある蕗谷清一郎です。
蕗谷は非常に優秀な学生で、自信家で、傲慢な性格です。老婆の殺害時も、老い先短い老人よりも、将来性豊かな自分のために金が使われる方が合理的だと考えるほどです。
蕗谷は検察の目を逃れるための小細工は一切弄しません。一種無邪気に、自然体で臨みます。そうすることで逆に検察を欺くことができると信じているのです。このように、自分のやり方で自信を持って検察と相対する蕗谷の姿に、僕は憧れるのです。蕗谷というキャラクターが主人公であるからこそ、この「心理試験」は僕の大好きな作品なのです。
本作の読者の多くは、僕と同じように蕗谷に感情移入して読むのではないでしょうか。だからこそ「心理試験」で蕗谷が追い詰められていく過程が、我が事のようにドキドキしながら読めるのです。
NHKドラマ「シリーズ・江戸川乱歩短編集」もおすすめ
本作にはいくつかの映像化作品があるのですが、中でもNHKドラマ「シリーズ・江戸川乱歩短編集」は大変おすすめです。
蕗谷清一郎は菅田将暉が演じています。僕は、特別菅田将暉のファンではなかったのですが、この蕗谷役はとても素晴らしかったです。
蕗谷の怜悧さ、傲慢さがよく表現されていて、僕の頭の中の蕗谷のビジュアルイメージは、完全に菅田将暉で上書きされてしまいました。
残念なことに、現在NHKドラマ「シリーズ・江戸川乱歩短編集」は配信などはされておらず、見るためには再放送を待つしかない状況です。ただ、とてもおすすめの作品ですので、もし機会があればぜひ見ていただきたいと思います。
読書イラスト
読書イラストとは?
本を読んで、その内容や気になったところ、面白かったところを元に好き勝手に書いたイラストです。(僕が勝手に付けた名前です)
江戸川乱歩「心理試験」の読書イラスト
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NHKドラマ「シリーズ・江戸川乱歩短編集」があまりに良かったので、ドラマのビジュアルに引っ張られてしまいました。ちなみに本作に蟹は登場しませんので、あしからず。
おわりに
今回は、江戸川乱歩の小説「心理試験」を紹介しました。
本作が集録されている文庫「江戸川乱歩傑作選」はどれも名作ぞろいなので、また別の機会に他の作品も紹介したいと思います。
それではまた。